カスハラ義務化は10月1日から|小さなお店が予約ルールとLINEで決めること
先に結論
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、人を雇う事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための措置が義務づけられます。 美容室・飲食店・整体・教室など、スタッフやアルバイトを雇っている小さなお店も対象です。
小さなお店が最初に決めておくことは、次の3つです。
- 方針:カスハラからスタッフを守ることを決め、何がカスハラか・その場でどうするかをスタッフに伝える
- 相談先:困ったときに誰に相談するかを決めて、スタッフに伝える
- 起きたときの手順:事実を確かめる、被害を受けたスタッフに配慮する、同じことが起きない工夫をする
予約・キャンセル・遅刻のルールをLINEで先に伝え、やりとりを文字で残しておくことは、トラブルの予防と事実の確認の両方に役立ちます。
閉店間際に電話が鳴り、「予約した時間に行ったのに待たされた。どうしてくれるんだ」と30分。受話器を置いたアルバイトのスタッフが、しばらく動けなくなる。
こうした場面を、スタッフ個人に任せず、お店として受け止める仕組みが求められるようになります。2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための措置が、人を雇う事業主の義務になります。
この記事では、厚生労働省の資料(2026年9月28日時点で確認)をもとに、何が変わるのか、何がカスハラにあたるのかを整理したうえで、美容室・飲食店・整体・教室などの小さなお店が最初に決めておく3つと、予約まわりのトラブルをLINEで減らす方法を、具体的な文面とあわせて紹介します。法律の細かい解釈には踏み込みすぎず、「明日からお店で何をするか」に絞ります。
10月1日から、お店には何が義務になるのか?
改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主はカスハラを防ぐための措置を講じなければなりません。方針を決めてスタッフに伝える、相談先を決める、起きたときに対応する、特に悪質なものへの対処を決める、が主な中身です。
厚生労働省のリーフレットでは、事業主が講じる措置が次のように整理されています。お店の言葉に置きかえて並べます。
| 厚生労働省が示す措置 | お店の言葉にすると |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | 「カスハラからスタッフを守る」と決め、何がカスハラか・その場でどうするかを伝える |
| 相談体制の整備 | 困ったときに誰に相談するかを決めて伝える |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 事実を確かめ、被害を受けたスタッフに配慮し、同じことが起きない工夫をする |
| 抑止のための措置 | 特に悪質なもの(暴力・脅しなど)への対処を先に決めておく |
| あわせて講ずべき措置 | 相談した人のプライバシーを守り、相談したことで不利にならないと伝える |
なぜ今、義務になったのか
厚生労働省のWebマガジンによると、同省の「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」で、過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」の相談があった企業・団体は27.9%で、前回の調査から8.4ポイント増えました。内容は「継続的な、執拗な言動」が72.1%で最も多く、「威圧的な言動」52.2%、「精神的な攻撃」44.7%と続きます。働く人ひとりに任せず、お店として対応することが求められている、というのが今回の改正の背景です。
同じ日から、求職者へのセクハラ対策も義務になる
厚生労働省のリーフレットでは、同じ2026年10月1日から、改正男女雇用機会均等法により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止も事業主の義務になると案内されています。アルバイトの面接や、学生のインターンシップ・見学を受け入れているお店も関係します。面接の場所や時間、やりとりに使う連絡手段を決めておくなど、あわせて確認しておきましょう。
どんな言動がカスハラにあたるのか?
厚生労働省は、お客さまなどの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境が害されるものをカスハラとしています。要求の中身が行き過ぎているものと、言い方や手段が行き過ぎているものの2種類があり、正当な苦情はカスハラではありません。
ここは誤解しやすいところです。「お客さまの文句はすべてカスハラ」ではありません。お店のサービスへの指摘は、改善のための大事な声です。行き過ぎかどうかは、要求の中身と言い方・手段の2つの面から考えます。
- 理由のない要求、サービスと関係のない要求
- 約束したサービスを大きく超える要求
- 対応がとても難しい、またはできない要求
- 不当な損害賠償の要求
- 暴行などの身体的な攻撃
- 脅し・暴言・侮辱・土下座の強要
- 威圧的な言動
- しつこく続く言動、長時間の居座り
電話・SNS・LINEでの言動も含まれる
厚生労働省の資料では、対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれるとされています。深夜に何十通も届くLINEのメッセージや、口コミ欄での中傷も、内容によっては対象になりえます。また「顧客等」には、これから来店するかもしれない人も含まれます。
小さなお店は、最低限何を決めればいいのか?
最初に決めておきたいのは、スタッフを守るという方針、困ったときの相談先、起きたときの手順の3つです。大きな会社のような規程集がなくても、A4の紙1枚にまとめてスタッフと共有するところから始められます。
① 方針は「一人で対応させない」を入れる
厚生労働省は、対処の内容の例として、管理監督者に指示を仰ぐ、できる限り一人で対応させない、犯罪にあたりうる言動は警察へ通報する、などを挙げています。スタッフ2〜3人のお店なら、「困ったら店長を呼ぶ。店長がいないときは、その場で決めずに折り返す」と決めておくだけでも、アルバイトのスタッフの負担は大きく変わります。
② 相談先は「店長がいないとき」まで決める
オーナーが施術中、店長が休みの日。小さなお店ほど、相談できる人がいない時間があります。代わりに誰に連絡するか、連絡がつかないときはどうするかまで決めておきましょう。相談したことで不利にならないことも、あわせて伝えます。
③ 起きたときは「事実を確かめる」ことから
厚生労働省は、相談があったときに事実関係を迅速かつ正確に確かめることを求めています。日時、何があったか、誰が対応したかを、その日のうちにメモしておくと、あとで落ち着いて判断できます。
スタッフに伝える「方針の紙」には、何を書けばいいのか?
方針の紙には、スタッフを守るという宣言、カスハラにあたる言動の例、その場での対応、相談先、相談しても不利にならないことの5つを書きます。長い文章はいりません。新人のアルバイトが入った日に、5分で読める長さにまとめます。
厚生労働省の措置の中身を、小さなお店向けにA4の紙1枚に落とした例です。お店の名前や連絡先を入れて、休憩室やスタッフ用のグループに置いておきましょう。
【こんなときは、一人で対応しません】
・大声、暴言、脅し、しつこい要求、長時間の居座り
・電話やLINEでの、同じ要求のくり返しや夜間の大量の連絡
【その場でやること】
・「確認して、担当の者からご連絡します」と伝え、その場で約束しない
・店長(◯◯・電話◯◯)を呼ぶ。つながらないときは◯◯へ
・暴力や脅しがあったときは、ためらわず110番する
【そのあとやること】
・その日のうちに、日時・内容・対応した人をメモに残す
相談したことで、不利な扱いをすることはありません。相談の内容は、必要な人以外には伝えません。
新人が入った日と、年に1回の見直しを決めておく
紙を作っても、読まれなければ意味がありません。新しいスタッフが入った日に一緒に読む、年に1回、繁忙期の前に見直すと、いつやるかを決めておくと続きます。実際にあった出来事をもとに、「こういうときはどうする」を1行ずつ足していくと、お店に合った紙に育っていきます。
予約・キャンセルのトラブルは、どう防ぐのか?
予約まわりのトラブルの多くは、「聞いていない」「言った・言わない」から始まります。遅刻・キャンセル・当日の変更のルールを、予約の前にLINEで文字にして伝えておくと、行き違いが減り、スタッフがその場で説明に追われる時間も短くなります。
業種ごとに、言い合いになりやすい場面があります。
| 業種 | 言い合いになりやすい場面 |
|---|---|
| 美容室 | 遅刻で施術を短くしたら「仕上がりが違う」と言われる |
| 飲食店 | 予約人数の当日の大幅な減少や、席の時間制限の説明 |
| 整体・鍼灸 | 当日キャンセルの扱いと、回数券の消化 |
| ネイル・まつげ | 仕上がりへの不満と、無料の直しの範囲 |
| 教室・レッスン | 振替の期限や、月謝の返金の範囲 |
ルールは「予約が決まったとき」に届ける
お店の壁に貼ってあるだけでは、お客さまの目に入らないことがあります。予約が決まったときのメッセージにルールを入れておけば、お客さまは予約の前に確かめられ、お店は伝えた記録を残せます。 無断キャンセルそのものを減らす工夫は、無断キャンセル・ドタキャンが多いお店向けのページでも紹介しています。
◯月◯日(◯)◯時から、カットとカラーでお待ちしております。
【ご来店の前にご確認ください】
・10分以上遅れる場合は、メニューを短くさせていただくことがあります
・日時の変更やキャンセルは、前日までにこのLINEからお願いします
・当日のキャンセルは、◯◯をいただいています
ご不明な点は、このトークでお気軽にお聞きください。
変更とキャンセルを「自分でできる」ようにする
電話で日時の変更を頼まれ、空きがなくて断ると、そこから言い合いになることがあります。お客さまがLINEから自分で空いている日時を選び直せるようにしておくと、断る場面そのものが減ります。 仕組みの考え方はお客さまが自分で予約を変更・キャンセルできる機能で紹介しています。
LINEでのやりとりは、なぜ記録として役立つのか?
LINEのやりとりは、日時と内容が文字で残ります。何を伝え、お客さまが何と言ったかを、あとから落ち着いて確かめられます。電話だけのやりとりに比べて「言った・言わない」になりにくく、事実を確かめるときの手がかりになります。
| 連絡の手段 | 記録の残り方 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 電話 | 残らない(メモ次第) | 受けた人がその日のうちに日時と内容をメモする |
| LINE | 日時と文面が残る | スタッフ個人のLINEではなく、お店の公式アカウントでやりとりする |
| 対面 | 残らない | その場にいたスタッフが、あとで一緒にメモを確かめる |
スタッフ個人のLINEで、お客さまとやりとりしない
スタッフが自分のLINEでお客さまと連絡を取っていると、夜や休みの日にもメッセージが届き、断りにくくなります。連絡はお店の公式アカウントに集め、営業時間外の返信は翌日にするとルールにしておくと、スタッフを守ることにもつながります。
困ったやりとりは、消さずに残しておく
しつこいメッセージや強い言葉が届くと、見たくなくてトークを消したくなるものです。ですが、あとで事実を確かめるときの大事な手がかりになります。トークは消さずに残し、必要なら画面を保存して、日時と対応した人をメモに添える。これだけで、店長やオーナーが落ち着いて判断しやすくなります。
対策を進めるうえで、気をつけることは?
カスハラ対策は、お客さまを疑うためのものではありません。大多数のお客さまは、ルールがはっきりしているほうが安心して来店できます。消費者の権利や、障害のあるお客さまへの合理的配慮にも気を配りながら、スタッフとお客さまの両方が安心できる形を目指します。
障害のあるお客さまの「配慮してほしい」はカスハラではない
厚生労働省は、障害者差別解消法による不当な差別的取扱いの禁止や、合理的配慮の提供義務に留意するよう求めています。障害のあるお客さまが、不当な扱いをしないよう求めたり、配慮を求めたりすること自体は、カスハラにはあたりません。ルールを決めるときは、「断るため」ではなく「安心して来てもらうため」という目線を忘れないようにしましょう。
迷ったら、労働局に相談できる
自分のお店の場合に何をどこまで決めればいいか迷ったときは、お店のある都道府県の労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。社会保険労務士に相談する方法もあります。
予約のルールをLINEでどこまで伝えられているかは、3分でわかるLINE活用度の無料チェックでも確かめられます。10月1日の前に、まずはA4の紙1枚と、予約確定のメッセージの見直しから始めてみてください。
よくある質問
カスハラ対策の義務化はいつからですか?
2026年10月1日からです。改正労働施策総合推進法により、事業主にカスタマーハラスメントを防ぐための措置を講じることが義務づけられます。厚生労働省の案内で確認できます。
スタッフが数人の小さなお店も対象ですか?
義務は、人を雇っている事業主が、雇っている人を守るためのものです。アルバイトやパートを含めてスタッフを雇っているお店は、規模が小さくても対策を考えておく必要があります。自分のお店が何をどこまでやればよいかは、都道府県の労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
お客さまの苦情は、全部カスハラになりますか?
なりません。厚生労働省は、顧客等の言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境が害されるものをカスハラとしています。サービスへの正当な指摘や要望は、お店にとって大事な声です。
電話やSNS、LINEでの言動も対象ですか?
厚生労働省の資料では、電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も含まれるとされています。LINEでのしつこい連絡や暴言も、内容によっては対象になりえます。
予約のキャンセル料を請求するのはカスハラ対策になりますか?
キャンセル料はカスハラ対策とは別の話です。ただ、キャンセルや遅刻のルールを予約の前にはっきり伝えておくと、「聞いていない」という言い合いが起きにくくなり、スタッフの負担を減らすことにつながります。
対策を作るとき、気をつけることはありますか?
厚生労働省は、消費者の権利や、障害者差別解消法による不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意するよう求めています。障害のあるお客さまが配慮を求めること自体は、カスハラにはあたりません。
スタッフを雇っていない一人営業のお店は、何もしなくていいですか?
今回の義務は、事業主が雇っている人を守るためのものです。ただ、予約やキャンセルのルールを先に伝え、やりとりを記録に残しておくことは、一人で営業しているお店にとってもトラブルの予防になります。
出典・参考(2026年9月28日時点)
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(リーフレット・PDF)
- 厚生労働省Webマガジン「従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール」(2026年8月20日)
記事の内容は2026年9月28日時点の情報です。最新の仕様・料金は各公式サイトでご確認ください。