店舗の事務作業はAIでどこまで減らせる?予約・シフト・発注の3場面で考える

先に結論
店舗の事務作業のうちAIに向くのは、「文章にする」「整理する」「たたき台を出す」仕事です。 予約の受付や在庫の数え上げのように、正確さが必要でお客さまの情報を扱う作業は、予約システムや表計算ソフトに任せる方が向いています。
場面ごとの使い分けの目安です。
- 予約:予約そのものの管理は予約の仕組みで。AIは案内文・キャンセル規定の文章づくりに
- シフト:希望を集めた表をもとに、AIに組み合わせ案を出してもらい、人が決める
- 発注:AIに計算を任せきりにせず、表計算ソフトの式づくりを手伝ってもらう
どの場面でも、お客さまやスタッフの名前・連絡先はAIに入れず、記号に置きかえて使いましょう。
ある整体院の店長さんの一日を、事務作業だけ抜き出してみます。
- 留守番電話の予約を台帳に書き写す。今日の予約を確認
- 来月のシフト希望をLINEで集めるが、返事がそろわない
- 消耗品の残りを見て、発注の数を考える
- シフト表を組む。キャンセル規定の貼り紙を作り直す。明日の予約の確認の連絡
- やっと帰宅
美容室でも飲食店でも教室でも、似たような一日を送っている店長さんは多いはずです。施術や接客の合間、閉店後に少しずつ事務作業が積み重なり、気づけば毎日1時間以上になっている。
この事務作業を、ChatGPTやGeminiのような生成AIで減らせないか。この記事では、お店の事務作業を予約・シフト・発注の3つの場面に分けて、AIに向くこと・向かないことを整理します。頼み方の見本と、個人情報を入れないための注意点もあわせて紹介します。
事務作業の時間は、1日だけ見ると大したことがないように感じます。でも、1日1時間なら、月に25日営業するお店で月25時間。1日8〜9時間営業のお店なら、ほぼ3日分の営業時間にあたる時間を、毎月、事務に使っている計算です。そのうち半分をAIや仕組みに任せられれば、その時間をお客さまとの時間や、休む時間に回せます。
お店の事務作業のうち、AIに向くのはどれか?
AIに向くのは、文章にする・整理する・たたき台を出す仕事です。反対に、正確な数字の管理や、お客さまの情報を扱う仕事は、予約システムや表計算ソフトの方が向いています。まずはこの線引きを持っておくと、使いどころを間違えません。
- 予約の受付・空き状況の管理
- 在庫の数え上げ・売上の集計
- お客さまの連絡先の管理
- 給与の計算
- 案内文・貼り紙・規定の文章づくり
- シフトの組み合わせ案(たたき台)
- 表計算ソフトの式の作り方を聞く
- メモや手順書の整理・長い文章の要約
「正確さ」と「個人情報」の2つで、向き不向きを見分ける
線引きの基準は2つです。間違えると困る数字を扱うか、そしてお客さまやスタッフの個人情報を扱うか。どちらかに当てはまる作業は、AIに答えを出させるのではなく、専用の道具に任せるか、AIには「やり方」だけを聞きます。
ChatGPTやGeminiは、自然な文章を作るのは得意ですが、ときどきもっともらしい間違いを書きます。予約の時間や発注の数を1つ間違えるだけで、お客さまを待たせたり、材料が足りなくなったりします。
予約まわりの事務は、AIでどこまで軽くなるのか?
予約そのものの管理は、AIではなく予約の仕組みに任せます。AIが役に立つのは、予約の案内文、キャンセル規定、よくある質問の答えなど、予約のまわりの文章づくりです。ここを整えておくと、同じ説明を電話で繰り返す時間が減ります。
ChatGPTやGeminiは、お店の予約台帳とつながっていません。「明日の空きは?」と聞かれても、答えられないのです。予約の受付や空き状況は、LINE予約などの仕組みで管理しましょう。予約の受付をLINEで行う方法は、LINE予約の機能のページで紹介しています。
キャンセル規定の文章は、AIで10分で整う
「キャンセル規定を作りたいけれど、きつい言い方になりそう」。こういう文章こそ、AIの出番です。頼み方の見本を紹介します。
キャンセル料の金額や条件は、お店が決めることです。AIには「決まっていること」だけを渡し、言い回しを整えてもらいましょう。
予約の確認の連絡は、AIより「自動で送る仕組み」
前日に「明日のご予約の確認です」と一人ずつ連絡しているなら、その時間はAIでは減りません。お客さまごとに送る連絡は、予約の仕組みの自動リマインドに任せる方が向いています。AIで作るのは、そのリマインドの文面だけで十分です。
よくある質問の答えを先に作ると、電話が1本ずつ短くなる
予約の電話が長くなるのは、予約そのものより「駐車場はありますか」「初めてでも大丈夫ですか」「どんな服で行けばいいですか」といった質問に答えている時間です。こうした質問と答えを、AIに下書きしてもらいましょう。
- 「〈住宅街の整体院〉に初めて来る人がよく聞く質問を10個と、答えの下書きを。答えは2〜3行で」
- 出てきた答えを、お店の実際の内容に直す(駐車場の台数、支払い方法、服装など)
- 直した答えを、予約の案内やLINEのメニュー、ホームページに載せる
一度作っておけば、電話で同じ説明を繰り返す回数が減り、スタッフによって答えがばらつくことも防げます。
シフト作りは、AIにどう手伝ってもらえばいいのか?
シフト作りでは、スタッフの希望をまとめた表をもとに、AIに組み合わせの案を出してもらい、最後は人が決めます。スタッフの名前は記号に置きかえ、連絡先や給与などはAIに入れません。AIの案は「たたき台」と割り切るのがコツです。
シフト作りで時間がかかるのは、希望を集めて、条件を満たすように組み合わせる部分です。AIに渡すときは、次のような形に整理します。
| AIに渡す情報 | 書き方の例 |
|---|---|
| 営業日と時間 | 火〜日の10時〜19時。月曜は定休日 |
| 必要な人数 | 平日は2人、土日は3人 |
| スタッフ(記号で) | A:週4日まで/B:土日は出られない/C:午前のみ |
| 休みの希望 | A:10月18日/B:10月22日・23日 |
| してほしいこと | 条件を満たす組み合わせを2案。足りない日があれば教えて |
名前を記号にするだけで、個人情報を入れずに済む
スタッフの名前をA・B・Cに置きかえても、シフトの組み合わせを考えるには何も困りません。AIの案が出てきたら、手元でA・B・Cを名前に戻して、シフト表に書き写します。
出てきた案は、労働時間や休憩の決まり、スタッフとの約束に合っているかを人が確認してから決めましょう。AIは、条件を1つ見落としたまま「できました」と答えることがあります。
シフト希望の集め方も、AIで文面を整える
シフト作りで意外と時間がかかるのが、希望を集める連絡です。「来月の希望を〇日までに」と送っても、返事がそろわない。そんなときは、集め方の文面をAIに整えてもらいましょう。締め切り、書き方の例(「10/18 休み希望」のように)、出せない日の伝え方をはっきり書いた文面にすると、返事の形がそろい、表にまとめる手間も減ります。
発注や在庫の計算は、AIに任せて大丈夫なのか?
計算そのものをAIに任せきりにするのはおすすめしません。文章の中で出てくる計算は、ときどき間違えるからです。発注や在庫は、表計算ソフトで管理し、AIには「どんな式を入れればいいか」を教えてもらう使い方が安心です。
たとえば、飲食店で「先週の使用量をもとに、来週の発注量の目安を出したい」とき。AIに数字を渡して答えを出させるより、次のように聞く方が、あとで何度でも使えます。
- 「スプレッドシートで、A列に品名、B列に先週の使用量、C列に今の在庫があります。来週の発注量の目安を出す式を教えて」
- 「在庫が決めた数を下回ったら、色が変わるようにする方法を教えて」
式ができてしまえば、毎週数字を入れるだけで計算は表計算ソフトがやってくれます。
業種ごとの「発注の悩み」とAIの使い方
発注の悩みは業種によって違います。AIに聞くことも変わります。
- 飲食店:食材の使用量が曜日で変わる。→ 曜日ごとの使用量から、発注量の目安を出す式を教えてもらう
- 美容室・ネイル:カラー剤やジェルの色数が多い。→ 品名と残量の一覧表の作り方と、少なくなったら色が変わる設定を教えてもらう
- 整体・エステ:タオルや消耗品の数がずれる。→ 毎日の使用数を記録する、かんたんな表の形を考えてもらう
- 教室・レッスン:教材や材料を人数分そろえる。→ 申込人数から必要な数を出す式を教えてもらう
どれも、AIに「答え」ではなく「表の作り方」を聞くのがポイントです。
AIの計算を確かめる、かんたんな方法
AIに計算を頼んだときは、「計算の途中の式も書いて」と頼みましょう。途中の式があれば、電卓で1か所確かめるだけで、合っているかどうかがわかります。答えだけを受け取るより、間違いに気づきやすくなります。
AIに入れてはいけない情報は何か?
お客さまの名前・連絡先・予約の記録・カルテの内容と、スタッフの住所・連絡先・給与は、AIに入れないのが基本です。事務作業では、つい台帳や名簿をそのまま貼りたくなります。記号や〈 〉に置きかえる習慣をつけましょう。
個人情報保護委員会は2023年6月に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています。事業者が個人情報を含む指示を入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確認すること。本人の同意なく入力した個人データが、返事を作る以外の目的で使われると法律に違反するおそれがあるため、サービス側が機械学習に使わないことなどを十分に確認すること。この2つが要点です。
個人向けと仕事向けで、入力した内容の扱いが違う
入力した内容の扱いは、サービスやプランによって違います。
- ChatGPT(個人向け):設定の「データコントロール」にある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、それ以降の会話は学習に使われないとOpenAIは案内しています。仕事向けのBusinessなどでは、初期設定で学習に使わないと説明されています
- Gemini(個人のGoogleアカウント):「アクティビティの保存」がオンだと、チャットが人のレビュアーに確認されたり、GoogleのAIの改善に使われたりすることがあります。オフでも、チャットは72時間アカウントに保持されるとGoogleのヘルプに書かれています
- Gemini(仕事用のGoogleアカウント):契約しているエディションによって扱いが異なるので、管理者の設定とGoogleの案内を確認します
どのサービスでも、設定を確認したうえで、個人情報は入れない。この2つをセットで、スタッフにも伝えておきましょう。
迷ったときは「記号にできるか」で考える
AIに入れていいか迷ったら、「この情報を記号や〈 〉に置きかえても、作業ができるか」を考えてみてください。シフトならスタッフをA・B・Cに、案内文ならお客さまの名前を「〇〇様」に、口コミの返信なら投稿者の名前を消して。ほとんどの事務作業は、置きかえても困りません。置きかえられない作業は、そもそもAIに向かない作業だと考えてよいでしょう。
事務作業の時間は、どこから減らし始めればいいのか?
まず1週間、何の事務作業にどれだけ時間を使っているかをメモしてみてください。時間がかかっている順に、AIに向く仕事か、仕組みに任せる仕事かを分けていくと、どこから手をつけるかが見えてきます。
メモは、ノートの端に「作業・時間」を書くだけで十分です。1週間分がたまったら、次の3つに分けます。
- AIで短くできる:文章づくり、シフトのたたき台、手順書の整理
- 仕組みに任せる:予約の受付、予約の確認の連絡、よくある問い合わせ
- 人がやる:お金の最終確認、スタッフとの話し合い、お客さまへの大事な連絡
電話と確認の連絡が多いなら、AIよりLINEから
メモを見て、「予約の電話」「予約の確認の連絡」「営業時間の問い合わせ」が上位に並んだお店は、AIよりも先に、LINEで受け付けて自動で返す仕組みを整える方が時間が減ります。予約や問い合わせの対応に追われているときの考え方は、予約・問い合わせ対応で業務が回らないときのページにまとめています。
AIは、使い方を決めれば、小さなお店の強い味方になります。まずは今週、キャンセル規定かシフトのたたき台のどちらか1つを、AIに頼んでみてください。
よくある質問
AIに予約の受付を任せることはできますか?
ChatGPTやGeminiのような対話型のAIは、お店の予約台帳とつながっていないため、予約の受付や空き状況の管理には向きません。予約は、LINE予約などの予約の仕組みで受け、AIは予約の案内文やキャンセル規定の文章づくりに使うのがちょうど良い分担です。
シフト表をAIに作ってもらってもいいですか?
たたき台を作ってもらうのは便利です。ただし、スタッフの名前はAにしたり、Bにしたりと記号に置きかえ、住所や連絡先、給与などは入れないでください。出てきた案は、労働時間や休憩の決まりに合っているかを人が確認してから決めましょう。
AIの計算は信用できますか?
文章の中で出てくる計算は、間違えることがあります。発注量や売上のように間違えると困る数字は、AIに答えを出させるより、表計算ソフトの式をAIに教えてもらい、表計算ソフトで計算する方が安心です。
スタッフの個人情報をAIに入れてはいけないのはなぜですか?
スタッフの名前・住所・給与なども個人情報です。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIに個人情報を含む指示を入力する場合、利用目的の範囲内かを確認し、入力した情報が機械学習に使われないことなどを十分に確認するよう注意を呼びかけています。記号に置きかえれば、ほとんどの作業は個人情報なしでできます。
無料のAIでも、事務作業に使えますか?
使えます。ChatGPTもGeminiも無料プランから始められます。無料プランには使える回数や機能に上限があるので、毎日使うようになってから有料プランを検討すれば十分です。仕事向けのプランでは入力内容の扱いが個人向けと異なるので、スタッフみんなで使う場合は確認しましょう。
事務作業を減らすには、AIとLINEのどちらから始めればいいですか?
電話や問い合わせの対応に追われているならLINE、書類や文章づくりに時間がかかっているならAIから始めるのが目安です。どちらも、まず1週間、何にどれだけ時間を使っているかをメモしてみると、始める場所が見えてきます。
出典・参考(2026年9月26日時点)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
- OpenAI Help Center「Data controls in ChatGPT」
- OpenAI「How your data is used to improve model performance」
- Gemini アプリ ヘルプ「Gemini アプリのプライバシー ハブ」
- Gemini アプリ ヘルプ「仕事用または学校用の Google アカウントで Gemini アプリを利用する」
記事の内容は2026年9月26日時点の情報です。最新の仕様・料金は各公式サイトでご確認ください。